国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所
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事務所の取り組み

  • 首都圏外郭放水路

    先端技術

    立坑

    大深度立坑:低発熱セメントでひび割れを防止

    外郭放水路の立坑は、トンネル工事の作業基地、水の取り込み、放水路の維持管理という三つの役割を担う。第1から第4までの4基の立坑は、掘削深さが最大76.5メートルに及ぶ大深度空間。そのため、立坑の構築に先立って施工した「大深度地中連続壁」も最大深さが140メートルに及ぶ。一方、第5立坑は「自動化オープンケーソン工法(SOCS工法)」で構築したもので、掘削深さは74.5メートル。
    立坑の側壁の厚さは深さに応じて2種類に分け、外力が大きい下部では上部より3割以上厚くしている。側壁の厚さは最大3.3メートルに及び、地中連続壁と合わせると最大5.4メートルにもなる。
    立坑のコンクリート打設は、逆巻き工法と順巻き工法を併用している。1回の打設高は、立坑内の掘削で生じる大きな土圧と水圧を考慮して決めた。
    立坑には確実な止水性と耐久性が求められる。そこで、マスコンクリートによる温度ひび割れを防止するため、低発熱ポルトランドセメントを使用。さらに、厚さ6メートルに及ぶ底版コンクリートは、2~3層に分けて打設した。第5工区の底版部の厚さは合計10メートル。下部の7メートルは水中コンクリート、上部の3メートルを鉄筋コンクリートとしている。
    第2工区の逆巻き部では大型鋼製型枠を採用し、型枠の組み立てと解体の作業時間を短縮した。同逆巻き部の上部1メートルの施工に際しては、打ち継ぎ目の品質を向上させるため、高流動コンクリートを使用した。低発熱ポルトランドセメントを使ったコンクリートは高流動化が困難と言われていたが、流動化剤に工夫して高流動化を実現している。
    第3立坑は、倉松川と中川から最大で毎秒100立方メートルの水を約60メートル落下させて流入させるので、他の立坑の構造と違って、落下する水の衝撃を和らげる工夫を施した「渦流式ドロップシャフト」を採用している。

    立坑名 第1立坑 第2立坑 第3立坑 第4立坑 第5立坑
    工法 地中連続壁 ケーソン
    立坑
    本体
    内径 31.6メートル 31.6メートル 31.6メートル 25.1メートル 15メートル
    掘削深さ 76.5メートル 71.4メートル 74.8メートル 68.8メートル 74.5メートル
    上部側壁
    厚さ
    2.5メートル 2.5メートル 2.5メートル 2メートル 2メートル
    下部側壁
    厚さ
    3.3メートル 3.3メートル 3.3メートル 3.3メートル 2メートル
    コンクリート量 2万5000立方メートル 2万6000立方メートル 2万6700立方メートル 1万6200立方メートル 6400立方メートル
    底版厚 6メートル 6メートル 6メートル 4.7メートル 3メートル
    地中
    連続壁
    内径 36.6メートル 36.6メートル 36.6メートル 29.1メートル なし
    壁厚 2.1メートル 2.1メートル 2.1メートル 1.7メートル
    深さ 130メートル 129メートル 140メートル 122メートル
    コンクリート量 2万3000立方メートル 3万6000立方メートル 3万7200立方メートル 2万1000立方メートル
    鉄筋挿入長 109.55メートル 97.55メートル 109.35メートル 89.15メートル
    鉄筋挿入率 84パーセント 76パーセント 78パーセント 73パーセント

    地下連続壁:大深度に耐える止水や強度を実現

    外郭放水路の工事では、掘削深さが68.8~76.5メートルに及ぶ4基の大深度立坑を築造するため、各立坑の条件に合わせて、深さ122~140メートル、内径29.1~36.6メートル、壁厚1.7~2.1メートルの大規模な地下連続壁を築造した。深さ140メートルの地下連続壁は国内で最も深いもの。地中深くまで施工するのは、盤ぶくれなどを防ぎながら立坑を安全、確実に構築するためだ。
    地下連続壁は、水平多軸掘削機などを使って掘削してから鉄筋かごを建て込み、水中コンクリートを打設して壁体を構築する。掘削に際しては、泥水で掘削壁面の崩壊を防いだ。鉄筋かごは大きな土圧や水圧が作用する連続壁の強度を確保するために入れるもの。鉄筋かごを挿入する深さは、連続壁の深さに対して約7~8割、立坑の掘削深さに対して1.7~1.8倍ほどとしている。
    大深度の地下連続壁の工事では、確実な止水性と所定の強度が求められる。そのため、円周方向の継ぎ目がないことや深さ方向の強度にバラツキがないこと、壁の厚さが一様であることなどに注意して施工した。垂直方向の掘削精度を保つことも重要で、例えば第3立坑では「高精度掘削精度管理システム」を導入して、深さ140メートルでの変位誤差を±5センチメートル以内に収めた。

    高精度掘削精度管理システム:深さ140メートルで変位誤差がプラスマイナス5センチメートル以内

    外郭放水路の立坑で築造した地中連続壁は、第3立坑において深さ140メートルと、国内では最大深度の施工を記録。しかも、垂直方向の変位誤差は±5センチメートル以内(精度2800分の1)に収めた。
    高い掘削精度が要求されるのは、精度が高ければ高いほど、地中連続壁は真の円筒形に近づき、エレメント間の継ぎ手の品質も向上して、全体の止水性や強度が優れたものとなるからだ。さらに、地中連続壁の内部に構築する立坑も、設計どおりの壁厚で施工できる。
    大深度では至難とされた高い掘削精度は、すべての工区で達成された。各施工者が掘削機械の位置をリアルタイムで管理しながら慎重に施工した結果だ。
    例えば、第3立坑では「高精度掘削精度管理システム」、第2立坑では「高精度位置管理システム」とそれぞれ名づけた一連の装置によって管理した。どちらも、掘削機に取り付けたワイヤの変位量をセンサーで検出し、リアルタイムで掘削機の絶対位置やねじれ、傾きなどを高精度で把握して、掘削機の制御に反映させる仕組みだ。

    渦流式ドロップシャフト:水が立坑の壁に沿って流れ落ちる

    外郭放水路の第3立坑では、倉松川から最大で毎秒100立方メートル、第5立坑では、大落古利根川から最大で毎秒85立方メートルもの水が流入する。仮に、大量の水を約60メートルも自然落下させると、滝のような衝撃力が立坑の底盤に悪影響を与える。そこで、水が立坑の壁面に沿って流れ落ちる「渦流式ドロップシャフト」を採用した。
    大量の水を立坑にどのような形状寸法で流入させるのが効果的であるかは、国土技術政策総合研究所による模型実験の結果を基に決定した。実験を必要としたのは、立坑へ流入する水の流れが複雑な三次元的なものとなり、数値解析が難しいからだ。模型の大きさは、実物立坑の約20分の1に相当する高さ約3メートル、直径約1.5メートルとした。

    自動化オープンケーソン:水中掘削機や揚土機で自動掘削

    大落古利根川の水を流入させる第5立坑の築造工事は、他の立坑と違って、自動化オープンケーソン工法(SOCS)で施工した。
    第5立坑は鉄筋コンクリート構造で、内径15メートル、深さ74.5メートル、壁厚2メートルの円筒形。同立坑から発進する連絡トンネルを含めて、関東地方整備局が初めて導入した「設計施工一括発注方式」の対象工事であった。
    SOCS工法は、水中掘削機と電動油圧グラブ、揚土機を組み合わせた自動掘削・揚土システムが特徴で、立坑に安定液を満たして掘削する。ケーソンの圧入は、ケーソン外周のグランドアンカーに装着した圧入ジャッキを自動沈下管理システムで制御して正確に進めることができる。
    ケーソンのコンクリートは、ひび割れを防止するために低発熱ポルトランドセメントを使用した。しかし、外面に近い部分は強度発現が遅くなる。そこで、コンクリート打設から3日間、全体をテントで覆って蒸気養生を実施することにより、工期の短縮を図った。
    ケーソンのうち、シールド発進部のコンクリートは、「ノムスト(NOMST)」壁構造とした。ノムストは、石灰石の粗骨材を使った新素材コンクリートと炭素繊維強化プラスチック製の高強度補強材で築造する。シールド機のカッタービットで切断できるので、危険な鏡切り作業が不要となる。

    地表近くで自動水中掘削機(左)と電動油圧グラブが掘削している様子 地表近くで自動水中掘削機(左)と電動油圧グラブが掘削している様子ケーソンを沈下させるための圧入桁と圧入ジャッキの設置状況 ケーソンを沈下させるための圧入桁と圧入ジャッキの設置状況ケーソンの外側に設置して電動油圧グラブなどを動かす揚土機の外観 ケーソンの外側に設置して電動油圧グラブなどを動かす揚土機の外観

    分岐管工法:コンクリートを広範囲に同時打設

    第2工区の立坑工事では、大量のコンクリートを高品質で打設するために「分岐管工法」を導入。底版のコンクリート4240立方メートルを約14時間で打設した。
    分岐管工法は、1台のコンクリートポンプ車に接続した1本の配管から左右に2本ずつ分岐を重ねていき、最大16口までの吐き出し口を設けることによって、広い範囲に均一なコンクリートを同時連続的に打設できる。
    多数の吐き出し口があるので、従来の方法と比べて作業員の移動範囲が狭くなるとともに、配管の切り回しなどの作業も少なくなる。これによって打設能力が高まり、コールドジョイントの発生を防止できるとともに、余裕をもった締め固め作業によって品質の向上も期待できる。配管の分岐によってコンクリートの品質は変化しない。

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