渡良瀬遊水地について
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目次
渡良瀬遊水地の概要
日本で最大の遊水地
遊水地は大雨などで川の水が急に増えたとき、その一部を貯めて下流に流れる量を少なくする役割を持っています。 渡良瀬遊水地は、茨城県古河市の北西に位置し、茨城県(古河市)、栃木県(栃木市、小山市、野木町)、群馬県(板倉町)、埼玉県(加須市)の4県の県境にまたがる面積33km2の遊水地で、効率的な洪水調節を行うための調節池工事が昭和37年度より開始され、現在は第1調節池、第2調節池、第3調節池の3つの調節池に分割されています。
渡良瀬遊水地の情報・年表
- 渡良瀬遊水地の面積
- 約33km2
- 渡良瀬遊水地の外周距離
- 約30km
- 渡良瀬遊水地の総貯水量
- 約1億7,000万m3
- 谷中湖の面積
- 約4.5km2
- 谷中湖の総貯水量
- 約2,640万m3
- ヨシ原の面積
- 約15km2
渡良瀬遊水地の年表
- 明治43年度
- 渡良瀬川が国の直轄河川となり、渡良瀬川改修工事が始まる
- 明治43年(1910)8月
- 洪水による大被害
- 明治44年(1911)
- 利根川改修計画の改定(渡良瀬遊水地が計画に位置づけられる)
- 大正7年度
- 藤岡新川(渡良瀬川と赤麻沼の間の台地開削)に通水し、周囲堤を含む主要工事の大部分が完了
- 昭和10年(1935)9月
- 洪水による大被害
- 昭和13年(1938)6月
- 洪水による大被害
- 昭和13年(1938)7月
- 洪水による大被害
- 昭和14年(1939)
- 利根川増補計画の策定(調節池化が計画に位置づけられる)
- 昭和22年(1947)9月
- カスリーン台風による大被害
- 昭和24年(1949)2月
- 利根川改修改訂計画の策定
- 昭和40年(1965)4月
- 河川法の改正による利根川水系工事実施基本計画の策定
- 昭和45年度
- 第1調節池の供用開始
- 昭和47年度
- 第2調節池の供用開始
- 昭和51年度
- 渡良瀬遊水地総合開発事業(貯水池化)の工事着手
- 昭和55年(1980)12月
- 利根川水系工事実施基本計画の改定
- 平成2年(1990)4月
- 渡良瀬貯水池(谷中湖)の供用開始
- 平成3年(1991)4月
- 谷中湖周辺が一般公開される
- 平成9年度
- 河川法の改正。第3調節池の供用開始
- 平成12年(2000)3月
- 「渡良瀬遊水地の自然保全と自然を生かしたグランドデザイン」提言
- 平成15年(2003)3月
- 渡良瀬遊水地総合開発事業完了
- 平成18年(2006)2月
- 利根川水系河川整備基本方針の策定
- 平成22年(2010)3月
- 渡良瀬遊水地湿地保全・再生基本計画の策定
- 平成24年(2012)7月
- 渡良瀬遊水地が「ラムサール条約湿地」に登録
- 平成25年(2013)5月
- 利根川水系利根川・江戸川河川整備計画の策定
遊水地のしくみ
渡良瀬遊水地の機能・役割
渡良瀬遊水地の治水機能
渡良瀬遊水地は、増水した川の水を一時的に貯め洪水被害を防ぎ、地域と首都圏の安全な暮らしを守る重要な役割を担っています。
居住地と河川を分ける遊水地全体を囲う堤防のことです。洪水時に調節池に貯めた水を居住地へあふれさせないために作ります。
河川と調節池を区切る堤防のことです。囲繞堤と周囲堤に囲まれた箇所が調節池となります。
河川の水位が上昇したとき、調節池に河川の水を導くため、囲繞堤の一部が低くなっています。この低くなっている部分を越流堤といいます。
調節池内にたまった水をすみやかに排出するための水路です。
渡良瀬遊水地の利水機能
渡良瀬遊水地にあるハートの形をした池は「渡良瀬貯水池(谷中湖)」です。 渡良瀬貯水池は、首都圏が水不足になった際に、利根川上流のダム群との連携により生活用水の補給や河川に流れる水量を適切にする働きを有しています。 また、品質の良い水を供給するため、自生するヨシを活用した水質改善対策を行っています。
渡良瀬貯水池のメリット
渡良瀬貯水池は供給地に近くその日のうちに水がとどきます。山にあるダムからでは2日程かかります。
水質改善対策
冬季に貯水池の水位を下げることを干し上げと呼んでいます。水位を下げ湖底を日光にさらすことにより、春先に発生するカビ臭の原因となる植物プランクトンの増殖を抑えるために実施しています。平成16年に開始しました。
取水口付近にある谷田川と渡良瀬川を分離している施設です。植物プランクトン増殖の原因となる窒素やリンの多い谷田川の水を、渡良瀬貯水池内に取り込まないようにしています。平成11年度に運用を開始しました。
渡良瀬遊水地に広く生育するヨシ原の自然浄化機能により貯水池の水を浄化する施設です。ヨシ原に水を通すことで、窒素やリン、植物プランクトン等を吸着、沈殿、吸収などによって取り除き、水質の自然浄化を図っています。 また、水を通すことで乾燥化が進んでいるヨシ原を湿地化させ、池や小山を造成して多様な環境を創出しています。平成11年度に運用を開始しました。
渡良瀬遊水地の歴史
足尾銅山鉱毒と渡良瀬遊水地の誕生
谷中村と渡良瀬遊水地
渡良瀬遊水地周辺はもともと、渡良瀬川、巴波川、思川の流末が錯綜する低湿地であり、遊水地完成後も、周辺地域は大きな洪水被害に見舞われていました。 このため、遊水地をより効率的に活用するために1963年(昭和38年)から調節池化事業が行われました。その結果、遊水地の中には3つの洪水調節施設が整備されました。
昭和に入ると増大する水需要に対処するため、遊水地の中に貯水池を作る計画が策定されました。計画予定地には遊水地の建設によって廃村された谷中村の跡地が残っていたため、地域の要望を受け、役場跡や雷電神社跡など当時の面影が現在も残されています。 そのため、渡良瀬貯水池はハートの形となり、名称も『谷中湖(公募)』となりました。
多様な動植物の生息地
ラムサール条約について
ラムサール条約とは(日本のラムサール条約登録湿地)
ラムサール条約の3つの柱
ラムサール条約には、目的である湿地の「保全・再生」と「賢明な利用」、これらを促進する「交流・学習」の3つの基盤となる考え方があります。渡良瀬遊水地においてもこれらに関する取組みが地域住民・団体等の参加のもと推進されています。
渡良瀬遊水地とラムサール条約登録の基準
渡良瀬遊水地は、本州以南最大のヨシ原(ヨシ群落・オギ群落)を主体とする湿生草地であり、以下のような多様な湿地環境を有しています。
- 植物種は1,000種以上、トネハナヤスリやタチスミレなどの環境省レッドリスト掲載種は50種以上が確認されています。
- 鳥類は約270種が確認されています。春~夏にかけてはオオヨシキリなどの草原性の鳥類の繁殖地として、また環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に掲載されているチュウヒをはじめとする猛禽類などの越冬地や、ツバメ等の渡り鳥のねぐらとして利用されています。
こうした豊かで多様な湿地環境を有することから、渡良瀬遊水地はラムサール条約の国際的な基準のうち「基準1:特定の生物地理区内で代表的、希少、または固有の湿地タイプを含む湿地」に該当し、ラムサール条約登録湿地として登録されています。 渡良瀬遊水地では、治水機能の向上を踏まえた湿地の保全・再生を進めるため、2018年(平成30年)に「渡良瀬遊水地湿地保全・再生基本計画(改訂版)」がとりまとめられています。
今後も、現存する良好な環境の保全と治水機能の向上に配慮しながら、湿地の保全・再生を図っていきます。いろいろな動植物
- 植物
- 鳥類
「保全・再生」「賢明な利用」「交流・学習」の取組み
「保全・再生」の取組み
湿地の掘削
渡良瀬遊水地では、湿地環境の保全・再生を図るため、乾燥化・外来種の増殖等により環境が悪化した場所を掘削し、多様な動植物の生息場を再生しています。 掘削した湿地は、学術調査や環境学習に活用されているほか、掘削土は、利根川の堤防の築堤土として用いられています。
ヨシ焼
毎年早春には、貴重な植物の発芽の促進、病害虫の駆除等を目的に1,500haの面積を対象に枯れたヨシを燃やす「ヨシ焼き」を実施しています。 また、この取り組みにより若いヤナギが焼かれることによって樹林化を防ぎ、現在のような広大なヨシ原が維持されています。
地域住民等による環境維持
湿地を含む渡良瀬遊水地の豊かな自然環境を守るため、地域の住民・各種団体・NPO等の参加のもと、清掃活動や外来種の除去等の多様な活動が実施されています。
コウノトリの生息環境保全
コウノトリは特別天然記念物に指定され、また、幸せを運ぶ“瑞鳥”として、古くから多くの人から親しまれ愛されてきました。
日本では、生息環境の悪化等が原因で、1971年に国内の野生コウノトリは絶滅しましたが、その後、海外から幼鳥を受贈し、兵庫県をはじめとして全国各地で繁殖や保全、野生復帰を目指した取り組みが進められています。渡良瀬遊水地では、2014年に27年ぶりの飛来が確認された後、2018年には、遊水地に設置した人工巣塔を拠点として、周辺のエリアに定着しました。 2020年には、同巣塔において、定着したペアからヒナが誕生しています。河川区域内におけるヒナの誕生は渡良瀬遊水地が全国初となります。
肉食性で湿地生態系の頂点に位置するコウノトリが生息するということは、渡良瀬遊水地には生き物がたくさんいる自然豊かな場所であることの証となっています。
「賢明な利用」の取組み
日本最大級のヨシ原はヨシズに代表される地場産業に活用されています。また、湖沼では漁業が営まれるなど、自然環境から得られる恵みが活用されています。
「交流・学習」の取組み
豊かな自然環境等を生かした環境学習や動植物の観察会が開催され、多くの人が遊水地の自然環境を学んでいます。
また、「体験活動センターわたらせ」や周辺の関連施設では、遊水地の利活用及び湿地環境等に関する情報提供や遊水地を活かした体験・環境学習などを支援しています。