KANTO REGIONAL DEVELOPMENT BUREAU.
官民連携で実現する
“防災×観光”の新しいかたち
インフラが「街」を盛り上げる
影山 一樹
江戸川河川事務
流域治水課
田中 宗紀
江戸川河川事務所
流域治水課
梅﨑 耀平
江戸川河川事務所
流域治水課
※所属は取材当時のものです
ダムや堤防をはじめとする防災インフラは、今や災害から地域を守る役割を持つだけではない。観光資源として活用することで、地域への来訪者増加や経済活性化にも寄与している。地域固有のインフラは、人々の防災意識の向上と、地域の新たな魅力創出を実現するランドマークとしての役割を担いつつある。
「防災インフラを観光資源として活用することは、『インフラツーリズム』と呼ばれている。現在国土交通省が管理する全国100カ所以上のインフラ施設において、400を超えるツアー企画を楽しむことが可能だ。中にはツアーのプロフェッショナルである民間の旅行会社のノウハウを活かしたプランがあり、人気を博している。普段立ち入ることのできない場所を見学したり、ツアー参加者だからこそ撮影できる写真をSNSでシェアしたりなど、有名観光地への旅行とは一味違った体験ができるのがインフラツアーならではの魅力だ。関東地方整備局においても、ダム・トンネル・橋梁など様々なインフラツアーの企画を用意している。
その中で、年間7万人近い見学者が来場し、国の防災インフラ初となる「民間運営」としてインフラツーリズムをリードしているのが、埼玉県の首都圏外郭放水路である。
同施設では、インフラツーリズムが本格的な盛り上がりを見せ始めた2015年以前から、先駆的に地域開放を進めてきた。現在では国土交通省の重点モデル地区に選定され、見学会や展示活動が地域振興の一翼を担っている。見学は自治体と民間事業者が連携して運営し、近年は“8つのパワーアップ計画”を進行中だ。ライトアップツアー、外国語対応拡充、SNS発信の強化など、取組は多様化している。有名サンドボックスゲームをモチーフにした放水路公開など、若年層へのアプローチにも余念がない。若年層へのアプローチ施策をリードしたのは、同施設の若手職員として活躍する梅﨑だ。
「私自身、現職に就くまで首都圏外郭放水路をよく知りませんでした。“自分の地域で災害が起きたらどうするか”という観点で、まずは身近なインフラを知ってほしい。そんな思いで様々な取組を行っています。若年層から高齢者の方まで、幅広い方々にお越しいただくので、誰にでもわかりやすく、そして楽しめる工夫をしているんです」(梅﨑)。
防災意識の啓発に加え、地域の魅力を発信し、人と街の循環を生み出す。様々な施策が奏功し、見学者は年々右肩上がりだ。普段は見ることのない施設を“体験できるインフラ”として開くことで、防災と観光、そして教育をつなぐ新しいかたちを築いている。
首都圏外郭放水路は、「地下神殿」の異名を持つ調圧水槽を有する、世界最大級の洪水対策施設だ。埼玉県春日部市の地下に位置するこの施設の役割は、中川・綾瀬川流域に降った雨水を一時的に貯水、江戸川へと流して洪水被害を防ぐこと。春日部市を含む埼玉県東部は、地形的に水害が発生しやすく、高度経済成長期以降の都市化が進む中で、たびたび深刻な浸水被害が起きていた。
首都圏外郭放水路の広報全体の統括・担当者として、施設認知度向上のための戦略を推進する影山は、施設の使命についてこう語る。
「昔からこの地域は雨が降るたびに苦しめられてきました。都市が広がるほど、守るべき命の数も増えていきます。『人々の日常を守りたい』それが私たちの願いです」(影山)。
こうした課題を解決すべく、平成5年に着工し、平成14年の一部通水開始を経て平成18年に建設された本施設。それ以降、台風をはじめとした大雨・洪水等の自然災害時には、従前に比べて浸水被害を約9割減少させた実績を持つ。
本施設は水を貯めるだけでなく、ポンプで排水する“放水機能”を備え、降雨や施設への流入状況に応じ放水量を高度に制御できる最先端の技術が特徴だ。世界有数の洪水対策モデルとして、海外の政府関係者や技術者が視察に訪れるほど注目を集めている。都市の下で静かに暮らしを支えるこの施設は日本の高度な治水技術を示す存在であり、「見えないインフラを知る場」として位置付けるインフラツーリズムの代表的な例になるのも頷けるだろう。
「“防災”や“安全”という言葉だけでは伝わらない、現場の空気や壮大なスケールを体感してもらうことが、『自分も備えなきゃ』と人々が自分ゴト化するきっかけになればと思っています。普段は入れない特別なエリアをご案内したりなど、ユニークな体験ができますので、興味を持っていただけると思いますよ」(影山)。
インフラツーリズムを通して職員が最も伝えたいのは、インフラをより身近なものとして捉えてもらうことだ。「『あのとき、もっと早く行動していれば』という後悔だけはもう誰にも味わってほしくありません。だから、防災を特別なことではなく日常の延長線上にある“自分ゴト”にしてもらいたい」(梅﨑)。
見学をきっかけに「この施設が自分の生活を支えている」と感じてもらえれば、防災意識の芽を育てることにつながるはずだ。
さらにこの取組は、地域活性・観光振興の波及効果も生んでおり、地元と協力しながら地域の賑わいを創出。SNSを介して発信された映像は国内外で大きな反響を呼び、年間7万人近い見学者が訪れている。首都圏外郭放水路は、今や日本を代表する防災観光の象徴になった。SNSなど多様な媒体を活用し、局内外への発信を担う田中は、本施設が目指す世界観をこのように描いている。
「日本各地には様々なインフラや防災施設があります。外郭放水路がロールモデルになって、“官民連携で防災と地域活性を両立”できるなら、もっとたくさんの街でこういう動きが生まれるはずです。『首都圏外郭放水路がインフラツーリズムのスタンダードになる』という夢を、チームみんなで本気で目指しています。」(田中)
首都圏外郭放水路を通じて、新たな防災施設の在り方をリードする。その未来に向けて、職員はさらなる挑戦を続けている。
どんな状況でも冷静で、同時に柔軟さも兼ね備えています。現場の声をよく拾い上げ、周囲の意見も汲み取ってくれるので、安心して一緒に仕事ができますね。『地域の安全のために』という信念が伝わり、頼りにしています。
的確な分析力と発信力があり、現場と見学者の『橋渡し役』として欠かせません。SNSや新しい施策への挑戦も積極的で刺激になります。数字や成果へのこだわりも持っていて、施設をより良くしていこうという意志を強く感じます。
有名ゲームをモチーフにした放水路公開や多言語サービス、イベント等「新しい取組」を現場目線で企画・実行する柔軟さと行動力を持っています。若年層やインバウンド、地元連携など幅広いターゲットに合わせて多様なアプローチを工夫して考えられる力があります。