登壇者プロフィール
磯田 道史
国際日本文化研究センター教授・歴史学者
歴史番組の司会や読売新聞連載、災害史の著作・講演など、防災啓発活動にも積極的に取り組む。
徳山 日出男
(一財)国土技術研究センター理事長・(株)電通総研名誉フェロー
2011年1月に国土交通省東北地方整備局長に赴任。着任後、53日目に東日本大震災が発生。道路啓開作業の指揮を執る。国土交通省道路局長、事務次官を経て現職。
橋本 雅道
国土交通省 関東地方整備局長
埼玉県副知事、国土交通省道路局高速道路課長、大臣官房技術調査課長、大臣官房審議官などを経て、2025年7月より現職。
奥村 奈津美(司会)
防災アナウンサー
東日本大震災の時、仙台のテレビ局アナウンサーとして被災しながら災害報道に携わる。以来15年間、被災地取材や支援活動、防災啓発活動を続ける。
司会 司会を務めさせていただきます防災アナウンサーの奥村奈津美です。今回の座談会には、こちらの3名にお越しいただきました。始めに一般財団法人国土技術研究センター理事長を務め、株式会社電通総研名誉フェローも兼任されている徳山日出男さんです。徳山さんは東日本大震災の際には、国土交通省東北地方整備局長として、道路啓開作業などの陣頭指揮をとられました。
徳山氏 防災の生々しい話をできるだけしたいと思います。
司会 続きまして、歴史学者の磯田道史さんです。磯田先生は歴史番組の司会や読売新聞などの連載、また災害の歴史に関する本や講演など、防災の活動もされています。
磯田氏 日本人はこれまでに何度も地震を経験してきているので、歴史に鑑みたお話をしたいと思います。
司会 そして、国土交通省関東地方整備局長の橋本雅道さんです。始めに橋本局長からご挨拶をいただきます。
橋本氏 本座談会は、今回で5回目です。これまで、過去の災害の教訓を踏まえた災害への備えについて意見交換を行ってまいりました、特に災害を「自分ごと化」していくことは非常に重要であるため、その大切さをお伝えしてきました。昨年7月の「カムチャツカ半島付近を震源とする地震に伴う津波警報」、12月の「北海道・三陸沖後発地震注意情報」など、海溝型巨大地震に関する注意情報が出て我々には大きな緊張が走りました。さらに、昨年末には首都直下地震の被害想定が見直され、改めて首都直下地震の発生が危惧されています。昨今の東京圏を取り巻く状況の変化を踏まえながら、「首都直下地震」への備えについてさまざまな角度から議論し、災害対策の最前線に立つ者として我々の備えをアップデートしたいと思っています。
東京臨海広域防災公園
司会 今回の会場である東京臨海広域防災公園を紹介します。こちらの公園は国営公園と都立公園が一つになり、広さは13.2ヘクタール。普段は軽い運動やピクニックをしたり、皆さんのリフレッシュの場として親しまれています。緑に囲まれた公園で、心地よい風を感じながら四季折々の景色を楽しめる気持ち良い空間です。

司会 普段は防災訓練の会場として使われる他、本部棟の中では関東地方整備局による災害対策の普及啓発や防災体験学習プログラムが行われています。本部棟にある「そなエリア東京」は、首都直下地震が起きた直後から避難までの72時間を疑似体験できる防災体験ゾーンや、日ごろの備えを学べる防災学習ゾーンがあります。入場は無料で、国内だけでなく海外からも多くの方が来館されています。

司会 そして、首都直下地震などの大規模な災害が発生した際には、現地対策本部の一つになり、東京湾臨海部基幹的広域防災拠点「有明の丘地区」として、公園全体が活動拠点として運用される計画です。

Theme 1
必要性が高まる首都直下地震の
「自分ごと化」に向けて
司会 最初のテーマは「必要性が高まる首都直下地震への自分ごと化に向けて」です。首都直下地震については、昨年末に被害想定が12年ぶりに見直されました。報道でも大きく取り上げられましたが、見直しのポイントなどについて、橋本局長からご説明お願いいたします。
橋本氏 今回の被害想定の見直しは「都心南部直下地震」を想定しており、建物の全壊や焼失は約40万棟、死者は約1万8千人、要救助者は約4万4千人、総被害額は約83兆円が見込まれています。道路では、路面損傷や沈下等の被害が約1万1千か所で発生するとされています。また、少子高齢化の進展や、訪日・在留外国人の増加、SNSなどの普及に伴うデマの拡散など、ライフスタイルや時代の変化に合わせた対応も求められます。

徳山氏
首都直下地震は、関東大震災や東日本大震災とは地震の種類が違います。類似する阪神淡路大震災では、亡くなった方の8割以上が最初の20秒で圧死したとされています。「地震だ、火を消せ」は関東大震災で学んだ教訓ですが、これは初期微動から本震が来るまでの間に火を消しに行く余裕がある地震だったということです。
私自身、東日本大震災では、備えたことしかできませんでした。何をやれるかは備えた量や質によると思います。日本は災害に関して、鎮魂のウエートが大きいですが、鎮魂だけでは、来たるべき災害で命は助かりません。人が生き残るための知恵を伝えることが重要です。家具や家電を固定したり、1980年以前の古い耐震基準の建造物の補強をしたり、命を守る備えをしてほしいです。
磯田氏 直下型地震は最初の行動が生死を分けます。1854年の伊賀上野地震で、学者の猪飼貞吉は「地震の時、俺は9歳、お前は3歳の子を」と、妻と申し合わせた通り子供を抱いて逃げ、一家は助かりました。首都直下地震の場合、突き上げられる縦揺れがいきなりきます。墓石まで飛んだという話も古文書に残っていますが、建物は1秒では壊れません。建物は、5~10秒プラスアルファで壊れていきます。この「金の時間」をどう使うかが大事です。最初の20秒を有効に使うためにも、あらかじめ家族の中で役割分担を決めておくことも重要です。
橋本氏 災害リスクの「自分ごと化」を推進するため、災害の教訓を伝承する活動などを「NIPPON防災資産」として認定する制度を2024年に創設し、広く紹介する活動もしています。災害時に、我々が発信する情報を信用して行動していただけるように、情報発信の内容や方法をアップデートしていきたいと考えています。
奥村氏 「自分ごと化」を進めるためにはまず、被害想定などを学び行動していくことが大事ですね。
Theme 2
大規模災害時における道路の役割
橋本氏 能登半島地震では、能登半島の主要道路が崩壊して救助が困難でした。緊急車両等の通行のため、迅速に救援ルートを確保する道路啓開がいかに大事かを再認識しました。

橋本氏 この地震をきっかけに昨年、道路啓開計画の策定が法定化され、首都圏でも「関東ブロック道路啓開計画(地震・津波編)」を2026年3月下旬の公表を目指し策定しているところです。

磯田氏 私は道路には2種類あると考えています。国が予算と技術力をもって造る強固なトップダウンの道路と、それ以外の江戸時代の村人たちが造った道普請に由来するボトムアップの道路です。能登半島地震を経て、半島部のような場所には、災害に備え強固なトップダウンの道路が必須だと実感しました。ダメージゼロの道路を目指すのが理想だが、ダメージが多少あっても早く修復ができる道路が、結果的に強くて良いと考えます。それが公の責任だと思います。
徳山氏 能登半島地震では、強い道路さえあれば、あれほどの苦労はなかったのではないでしょうか。高速道路や主要な国道などの幹線となる道路は、強くなければならない教訓と言えます。これらは道路全体の約3%です。それを地域の幹線道路として、平時にも有事にも強い道路にしてほしいです。幹線道路が強くなれば、渋滞が減り、経済や社会にも有益です。
橋本氏 大地震の際は車での避難は避けていただきたいです。また、運転中に大地震が発生したら、車を道の端に寄せ、車のカギは車内に置き、ドアロックをしないで避難いただけると啓開作業が効率的になります。「自分ごと化」のひとつにしていただきたいと思います。
奥村氏 いち早く物資などを届けて人の命を救うためにも、強い道路はなくてはならないものだと改めて認識しました。
(開催場所:東京湾臨海部基幹的広域防災拠点「有明の丘地区」オペレーションルーム)