自然と中和
 吾妻川はかつて、強い酸性の水が流れるために魚も棲めない「死の川」と呼ばれていました。そして、鉄やコンクリートを使った建造物が作れない、河川水が農業に適さないなど人間の生活にも多くの負担を強いていました。そこで、吾妻川に流入する酸性河川のひとつである湯川の水を中和して、川を甦らせようという取り組みが始まったのです。とめることのできない事業に適した中和材料を見つけることや、中和生成物をどう処理するかなど、たくさんの問題をひとつひとつ解決していったすえ、昭和39年に世界で初めての酸性河川中和事業がスタートしました。
 その中和方法は、草津中和工場で湯川に石灰ミルクを投入し、その先に建設された品木ダムに流れ入るまでに徐々に進んでいくという仕組みです。
 現在、吾妻川には魚などの生物が棲むようになり、下流の人々も中和された河川の水の恵みを受けて生活しています。そして、草津中和工場はこれからも24時間365日、湯川の中和を行っていきます。

 
 
中和のしくみを見る
1 白根山  
  白根山は硫黄成分を主体とした活火山です。山頂の湯釜という河口湖はpH1.2という大変強い酸性の水をたたえています。これは白根山に降る雨が硫黄成分を溶かし出して強酸性となるためです。そして、同様に酸性となって地層から涌き出した水が流れる湯川の水もpH2.1(レモン水と同程度)という強酸性の河川となります。
2 湯畑  
  湯川の水(湯)は草津温泉を潤す源です。恋の病以外は何でも治せるといわれた湯の泉質はpH2.08で55度(湯畑)という、強酸性で高温の湯が持つ殺菌力が特徴です。開湯から1200年ものあいだたくさんの湯治客を癒し、現在も毎分約5,000リットルもの湯を湧出して脈々と続く湯治文化を支えています。
しかしその一方で、強い酸性のまま下流に流れていくと、魚などの生物が生息できなくなったり、コンクリートや鉄を使った建造物が作れない、水が人の生活や農業に適さないなど多くの悪影響が出てしまいます。
そのため、昭和39年から世界に先がけて中和事業が行われているのです。
3 石灰ミルク投入  
  草津中和工場は湯川の水を中和しています。
中和に用いるのは群馬県内で採れる石灰です。中和事業は止めることができないため、安定した供給が見込まれる石灰は中和の材料として適しているのです。
石灰を湯川の水に溶けやすい大きさ(75マイクロメートル)に粉砕した石灰粉(タンカルと呼ばれる)は、毎日タンクローリーで運ばれてきます。1日の石灰使用量は約52.5トン、年間使用量は約1万8,000トンにのぼります。
  運ばれてきた石灰粉は一度サイロに貯蔵されます。石灰の使用量は毎日のpH測定によって決定します。サイロは3台あり、ローテーションで稼動しています。
  サイロから落下した石灰紛は用水管に引き込んだ河川水と混ざって濃度14〜15%の石灰ミルクとなります。これを湯川の上に設置された投入口から自然に投下します。
  河川の中和事業は止めることができません。中央管理室で24時間365日、中和が円滑に行われるように監視しています。
     
4 中和とその後  
  石灰ミルクが投入された湯川の水は白く濁って流れて行きます。
そして、下流に作られた品木ダムへ流入するまでの約3kmの間に中和反応はゆっくりと進み、品木ダムに入る頃pH5.5程度になります。
これは、中和反応がおきて中性になったときにできる中和生成物で河川やダムが埋まってしまわないよう、完全に中性にならない範囲でゆっくりと反応をさせているのです。
  品木ダムは上州湯の湖とも呼ばれて親しまれています。ここは中和反応の促進と中和生成物の収容を行う中和緩衝池の機能を持っています。また、ダムの水は発電にも用いられています。
  品木ダムには、草津中和工場で投入された石灰ミルクの成分である「炭酸カルシウム」と湯川の酸性成分である「硫酸、塩酸」との中和反応によって生じる「硫酸カルシウムと塩化カルシウム」という中和生成物が沈殿・堆積します。そのほか河川からの流入土砂もあるため、定期的に浚渫が行われています。浚渫物は脱水され、環境に配慮した土捨て場に運ばれます。
5 中和とその後  
  品木ダムから流れ出た水は利根川の一大支川である吾妻川に流入します。現在の吾妻川には湯川などの中和によって魚などの生物が棲めるようになっています。

吾妻川はその後利根川に合流し、やがて太平洋に流れ着きます。
白根山で生まれた湯川の酸性の水は、温泉として人々を癒し、中和された後は近隣の人々のみならず、様々な形で下流に住む人やその他の生物と深く関わりあいながらその旅を終えるのです。

 


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