国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所
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事務所の取り組み

  • 首都圏外郭放水路

    先端技術

    調圧水槽

    大規模調圧水槽:水和熱対策やアンカー工法に工夫

    外郭放水路の調圧水槽は、第1立坑と排水機場の間にあって、排水機場のタービンポンプの運転時や緊急停止時に必要となる水圧調節の役割を担う。
    調圧水槽は現場で構築した鉄筋コンクリートの構造物で、長さ177メートル、幅78メートル、高さ18メートルに及ぶ。水槽の中には59本の鉄筋コンクリート柱が林立して、天井のスラブと地上部の多目的グラウンドの盛り土を支えている。
    この国内最大級の巨大水槽を地下水位の高い地中に築くと、地下水の揚圧力で浮き上がる恐れがあった。そのため、底版やスラブなどの厚さを増やして、揚圧力を上回る荷重を確保した。地下水による掘削時の盤ぶくれも予想されたので、5カ所にディープウェルを設置して地下水を低下させた。
    調圧水槽の工事は、まず、周囲に土留め壁となる深さ52メートル、厚さ1メートル、延長384メートルの地下連続壁を築造。次に、その内部から深さ約22メートルで約27万立方メートルに上る土砂を掘削した。最後に、鉄筋を組み立てながら約12万6000立方メートルに及ぶ大量のコンクリートを打設した。
    地下連続壁に囲まれた内部での作業効率を上げるため、地下連続壁の背面にグランドアンカーを設置した。グランドアンカーは、引っ張り型アンカーだけではピッチが狭くなるので、「荷重分散型アンカー」を併用して本数を減らした。
    底版や側壁の厚さが3.5メートル以上となるコンクリートの水和熱で起こるひび割れを防ぐ「マスコンクリート対策」にも万全を期した。低発熱ポルトランドセメントを使うほか、温度応力解析を基にひび割れ誘発目地を設置して成果を収めた。
    「調圧水槽と立坑との接続」に際しては、あらかじめ立坑の地下連続壁をワイヤーソーで切断して、地下連続壁の破砕による立坑への悪影響を防いだ。

    マスコンクリート対策:低発熱セメントや目地でひび割れ防止

    地下連続壁の表面に縁切りシートを設置している状況 地下連続壁の表面に縁切りシートを設置している状況

    外郭放水路の立坑や調圧水槽、排水機場、排水樋管といった施設は、大きな土圧や水圧を受けるので大きな部材寸法で設計されている。このような構造物は、一度に大量のコンクリートを打設すると水和熱で温度ひび割れが生じやすい。特に、各施設はひび割れが生じると地下水が漏出する環境にあるため、各種の水和熱対策を講じてきた。ここでは、調圧水槽における対策事例を紹介する。
    調圧水槽は底版と側壁の厚さが最小でも3.5メートルで、コンクリート量が約12万6000立方メートルに及ぶ巨大な構造物である。水和熱対策を講じた結果、温度ひび割れを制御して、1日当たり最大で約4000立方メートルのコンクリートを打設することができた。
    ひび割れ防止対策としては、低発熱ポルトランドセメントを使用するとともにひび割れ誘発目地を設置した。温度上昇を一層抑えるため、粗骨材の最大寸法を40ミリメートルと大きくするとともに、単位セメント量を極力少なくして水セメント比W/Cを約60パーセントとした。打設後はかん水養生を行い、気温が高い時は大型クーラーを使った。このほか、地下連続壁との間に縁切りシートを設置して外部拘束応力を低減した。同シートは厚さ6ミリメートルの発砲ポリエチレンとポリプロピレン織物、ゴムアスファルトから製造されている。
    コンクリートのひび割れ誘発目地の間隔やリフト高さなどは、事前に3次元FEM温度応力解析を行い、温度ひび割れ指数が1.2以上となるように決めた。側壁のコンクリート打設は、ひび割れ誘発目地の間隔を14メートルとし、側壁のハンチから上の8メートル部分は3層に分けて施工した。
    天井のスラブコンクリートの打設間隔は、側壁の誘発目地に合わせて14メートルとした。厚さが最大3.5メートルもあるスラブの荷重に耐える大型支保工を底版から組み上げて型枠を設置した。

    荷重分散型アンカー:従来型アンカーの本数を3割減らす

    調圧水槽の工事では、地下連続壁を支持するグランドアンカーに「荷重分散型アンカー」を採用した。荷重分散型アンカーは、複数の耐荷体に同じ緊張力を導入して引っ張り力を分散させることによって、あまり強くない地盤でも大きな設計アンカー力が期待できる。
    調圧水槽の現場は、N値が20~40の地盤で地下水位が高いので、深さ約22メートルまで掘削すると地下連続壁に大きな外力が作用する一方、1本のアンカーに大きな引き抜き抵抗力が期待できない。そのため、引っ張り型アンカーの場合は約1.2メートルピッチとなり、定着の確実性や止水工の施工性などに問題が生じると判断された。
    そこで、分散型アンカーの確実性を試験施工で検証したうえで、外力の大きさに応じて引っ張り型アンカーと荷重分散型アンカーを併用した。アンカーのピッチは最大で1.9メートルとなり、施工時の水の吹き出しリスクも低減できた。引っ張り型アンカーだけの場合と比べて、施工本数を約30パーセント減の1148本、延長を約16パーセント減の2万9100メートルとすることができた。

    • アンカーの比較 アンカーの比較
    • 掘削に伴って荷重分散型アンカーを施工している様子(写真:佐藤工業) 掘削に伴って荷重分散型アンカーを施工している様子(写真:佐藤工業)

    調圧水槽と立坑の接続:地下連続壁をワイヤーソーで切断

    調圧水槽の工事では、完成していた第1立坑に躯体を接続するため、第1立坑の開口部をふさいでいた地下連続壁をダイヤモンドワイヤーソーで切断、撤去した。開口部は、立坑から調圧水槽に向かって水が流入するためのもので、鋼製の仮壁でふさがれていた。
    撤去した地下連続壁は、壁の中心に沿う幅が31.1メートル、高さ21.6メートル、厚さ2.1メートルの大きなもの。事前の調査や試験施工によって、仮に地下連続壁をジャイアントブレーカーで撤去すると、振動で立坑に悪影響を及ぼすことが判明した。
    そこで、ダイヤモンドワイヤーソーを使って、立坑と地下連続壁を縁切りする工法を採用した。立坑への影響を最小限にするため、最上部の高さ5メートルの部分については、さらにワイヤーソーで細かく分割した後、クレーンで撤去して別の場所で破砕した。
    調圧水槽と第1立坑の接続は、止水を確実に行う必要がある。地下連続壁同士の接続部は、背面にコラムジェットでセメントミルクを注入した。開口部の躯体の接続部には、耐圧ゴムプレートとたわみ性の継ぎ手を設置した。

    第1立坑の工事で開口部の内側に設置されたH形鋼などによる鋼製の仮壁(写真:佐藤工業) 第1立坑の工事で開口部の内側に設置されたH形鋼などによる鋼製の仮壁(写真:佐藤工業)
    ダイヤモンドワイヤーソーで地下連続壁の上部を細かく切断した状況(写真:佐藤工業) ダイヤモンドワイヤーソーで地下連続壁の上部を細かく切断した状況(写真:佐藤工業)
    ジャイアントブレーカーで第1立坑の地下連続壁を破砕している様子。開口部の茶色の部分は鋼製の仮壁(写真:佐藤工業) ジャイアントブレーカーで第1立坑の地下連続壁を破砕している様子。開口部の茶色の部分は鋼製の仮壁(写真:佐藤工業)
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