国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所
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事務所の取り組み

  • 首都圏外郭放水路

    先端技術

    排水機場

    大規模排水機場:土木や建築、機械などの技術を集結

    外郭放水路の排水機場は、延長約6.3キロメートルのトンネルを通って調圧水槽に流れ込んだ水を江戸川に排水する役割を担う。排水機場の下流には江戸川への導水と江戸川からの逆流を防止するため、「排水樋管」が整備されている。
    完成した排水機場には、大型の「渦巻きポンプとガスタービン」がそれぞれ4台設置され、最大で毎秒200立方メートルの排水能力を備えている。最新技術を導入したコンパクトで高い性能を持つ設備だ。
    2002年6月から、第3立坑から第1立坑までの区間に流入する水を、「試験通水」として排水している。2006年6月には第5立坑まで整備が完成した。
    排水機場は、調圧水槽に隣接する場所を地下23.6メートルまで掘削して築いた長さ73.5メートル、幅78メートル、高さ30.5メートルの鉄筋コンクリート構造物。上階に「排水施設の監視と制御」を行う操作室を備えた管理棟を併設している。
    排水機場の土木工事は、調圧水槽の地盤や掘削深さ、コンクリート打設と類似しているので、工事上の問題も同様の方法で解決している。掘削工事の土留めとして築いた地下連続壁は、深さ52メートル、幅1メートル、延長225メートル。掘削に伴い、地下連続壁の背面にグランドアンカーを10段で合計1090本設置して安定を維持した。掘削土砂約36万立方メートルの大部分は、江戸川の堤防の盛り土に利用した。
    排水機場のコンクリート量は約9万3000立方メートルに及ぶ。調圧水槽と同様に地下水による浮き上がりを防止するため、底版の厚さは最大で5.6メートルとした。マスコンクリート打設に伴う温度ひび割れを防止する対策として、低発熱ポルトランドセメントの使用や打設ブロックの細分化を行うほか、地下連続壁との間に厚さ6ミリの縁切りシートを設置した。
    排水機場の構造は、ポンプ設備や発電機、水路、ゲートなどの空間が複雑に入り組んでいる。工事に際しては、三次元CADシステムを駆使して詳細でわかりやすい図面を作成し、数量計算や出来形管理、作業効率などを高めた。一方、施工者が異なる躯体工事と設備工事を同時並行で進めざるを得ない機会が多いので、両者の工程調整を綿密に進めた。

    排水機場鳥瞰図 排水機場鳥瞰図

    渦巻きポンプとガスタービン:最新技術を駆使した排水設備

    2002年6月から稼動している外郭放水路の排水機場は、国内の機場では最大規模。その中心となる設備は、「立軸渦巻き斜流ポンプ」と「2軸式ガスタービン」だ。どちらも最新技術を導入して信頼性を高めるとともに、コンパクト化を実現して排水機場の省スペースにつなげた。
    渦巻きポンプは、直径3.8メートルの羽根車を回転させて水の流れをつくるもので、1台で毎秒50立方メートルの排水能力がある。2002年から2台で稼動、2006年には4台となって毎秒200立方メートルの排水が可能となった。全揚程は14メートルに及ぶ。国内の排水量が同規模のポンプと比べると2倍以上の揚程だ。
    新技術を導入したポンプは、従来のポンプと比べて流れ込む水の流速が約2倍に、吸い込み性能が約1.2倍にそれぞれ向上した。その結果、従来と比べてポンプ室の面積を76パーセント低減するとともに、機場の底版を約5.5メートル高くすることができ、掘削深さの低減につながった。
    ガスタービンは渦巻きポンプの羽根車を回転させる原動力で、航空機に使う定格出力1万4000馬力の2軸式ガスタービンを導入した。燃料の特A重油を燃やして発生する強い風で風車が回り、その力で渦巻きポンプが回って排水する仕組みだ。ディーゼルエンジンと比べて機場内の無水化や省スペースが可能となり、約100トンの軽量化も実現した。ガスタービンは機場建屋に与える振動が少ない。

    50メートルポンプの構造 50メートルポンプの構造

    試験通水:試験通水で浸水被害が激減

    試験通水の効果

    外郭放水路の整備事業は着々と進み、完成した第1立坑から第3立坑までの延長約3.3キロメートルの区間を対象に、2002年6月から試験通水を始めた。試験通水の目的は、水が流入したときに、排水施設などが正常に機能するかどうかを確認するとともに、その運用方法や水質を調査することなどだ。
    2004年10月までの試験通水の実績は、総排水量が約2000万立方メートル、洪水調節総量が約2500万立方メートルに及んだ。この洪水調節総量は東京ドーム約20杯分に相当する。その結果、中川や倉松川などの流域である幸手市や杉戸町、春日部市(旧 庄和町)における浸水被害が大幅に軽減された。
    例えば、外郭放水路が未整備であった2000年7月の台風3号では、 累計160ミリメートルの降雨量で浸水面積が114ヘクタール、浸水戸数が236戸であった。これに対して、試験通水を実施した2002年7月の台風6号では、累計降雨量がほぼ同じ164ミリメートルであったものの、浸水面積が2ヘクタールに激減。浸水した家屋もなく、外郭放水路を整備した効果が顕著に見られた。

    • 雨量の比較
    • 浸水面積の比較
    • 浸水戸数の比較

    排水施設の監視と制御:リアルタイムの統合管理で迅速に制御

    外郭放水路の排水施設の監視と制御は、庄和排水機場の操作室で統合管理している。排水制御が放水路全体の水の挙動を支配するうえに、容量にも制約があるので、全施設を総合的に監視、操作することが要求されるからだ。例えば、洪水時に立坑から水が流入すると動水こう配が一様とならないので、立坑の水位の異常上昇を防ぐために、立坑の流入状況や水位を全体的に監視しながら、調圧水槽の水位を適切に制御する。
    操作室は、リアルタイムで監視制御を行う「監視操作システム」や監視制御のガイダンス支援を行う「運転管理システム」、中長期的なデータベース化を図る「施設情報管理システム」などから構成されている。監視操作や運転管理は、すべてディスプレーのタッチ操作やマウス操作で行う。トンネルが水で満管状態になると、短時間でポンプ始動の水位に達する一方、満管になるまでの時間が流入パターンによって大きく変化する。通常の河川管理と違って、迅速な対応と多様な判断操作が必要となる。さらに、排水を開始する前には、排水樋管のゲートを開いておく必要がある。そこで、トンネルの貯留量やその変化量、ポンプ始動までの準備時間などを組み込んで、始動タイミングを適切に判断できるシステムを構築した。
    操作制御設備は、流入河川への逆流防止などを回避するために、迅速で的確に操作できる高い信頼性が求められる。そこで、電源は2系統にして危険分散を図り、2系統相互の電源のバックアップも可能とした。コンピューターも、異常時に制御が継続できる機能を備えている。
    平常時はトンネルをドライの状態にしておくため、排水機場のポンプ設備で排水しきれないトンネル内の水は、第3立坑の一次残水排水ポンプと第1立坑の二次残水排水ポンプで排水する。このポンプの操作も操作室で制御できる。一次残水約67万立方メートルは2台のポンプを使って3日間で倉松川へ排水し、二次残水は農業用水路へ排水する。
    この残水排水ポンプを動かす電線のほか、各立坑の水位計の計測やCCTV設備の監視に必要なケーブルは、トンネルのインバートの中に埋設されている。
    2002年6月から実施している試験通水以降、排水設備と操作制御設備が一体となって機能を発揮して、地域の浸水被害の軽減に役立っている。

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